Interview

Picnika interview Picnika 津留さんに聴く「東欧のフォークロア」

2017年11月1日から7日まで、札幌・桑園のショップギャラリーM&Wでは2回目となるPicnika・津留慎太郎さんの古道具展「東欧のフォークロア」を開催します。津留さんを紹介すると、旅のかけらや100年以上前から続く暮らしのかけらを集めている人…となるでしょうか。津留さんがつくっているのは「東欧の空気」なのかもしれません。今回は、Picnika店主・津留さんがどうして東欧のアンティークや古道具のお店をはじめたのか、東欧の魅力、旅の楽しみについても伺いました。
photo,text : rie aoyama

東欧の空気を運ぶひと

drop:Picnika開店10周年おめでとうございます! オリジナルのメッセージカード、箱もカードも可愛かったです。

Picnika:ありがとうございます!でもPicnikaという店のスタイルが固まったというか、やりたいことやっている自覚はここ5年くらいの感じなので、10年やってきた自覚はあまりないですね。

d:せっかくなので、10周年を迎えたPicnikaという屋号の由来から聞いていいですか? ちなみに私たちの屋号drop aroundは「ちょっと立ち寄る」という意味で、辞書をめくってなんとなく響きと字面で決めた「drop around」にとくに思い入れる間もなく、そのまま15年経ちました笑。

P:Picnikaを開店する頃は結構ポップなイメージでやろうと思っていて、「picnic」という響きがその時気に入っていたので、それを文字って付けました。なんとなく東欧の地名っぽい感じに。実は僕もあまり思い入れがなくて10年が経ちました(笑)。

d:ご出身はPicnikaを営んでいらっしゃる福岡ではないですよね?(台風や昨年の地震、とても心配になりましたがご実家のご家族に怪我など無くよかったです)

P:はい、熊本の阿蘇の出身です。僕はいまルーマニアのトランシルヴァニア地方という自然豊かな場所で毎年買い付けをしているんですが、もしかしたら阿蘇の山の中で暮らしていたせいもあるのかなと思っています。やっぱり山や森が好きなんだなと。

d:直接的でなくても、小さい頃に見ていた景色や環境って原風景として体や価値観に残るのかもしれませんね。阿蘇とトランシルヴァニアって気候や文化、人の気質などで繋がっているところがあると感じますか?

P:トランシルヴァニア地方は、トランシルヴァニア・アルプス山脈とカルパチア山脈とに囲まれた台地で、阿蘇のカルデラの地形に近いところがありますね。緯度は北海道に近く冬はかなり厳しい寒さになります。阿蘇は九州ですが実は結構積雪もあるんです。人の気質という面では正直よくわかりませんが、トランシルヴァニアに多く住むハンガリー系の人々はとても親切で温かいです。ハンガリー人のルーツが中央アジアの遊牧民だという説があって、もしそれが本当であれば日本人とルーツが同じということになりますよね。意識してしまっている部分もあると思うんですが、結構シンパシーを感じています。

旅することからはじまった仕事

d:津留さんは小さい頃から古いものや、クラフト、フォークアートなどが好きだったんでしょうか?

P:古道具というより、古着のほうが好きでした。熊本には古着屋が多く、中学生の頃からカツアゲに恐れながら市内まで通っていました(笑)。
古道具に興味を持ち出したのは20代になってからですね。21才の頃に古着屋になりたいなあと思っていて、ちょっと市場(しじょう)を見てみたくなりアメリカの西海岸を1ヶ月半くらい回ったことがあるんですが、その時に意外と服ではなくて食器や鍋などの生活道具を手にしていました。それが道具好きになったきっかけだと思います。

d:すごい! どこかで修行するよりまず先に自力行動、となるのが格好いい。開拓者のよう。まずは旅からはじまるんですね。そのパイオニアのようなわが道をゆくスタイルには、熊本人気質を感じます!道具好きになった後、住む街とお店を開く街を地元の熊本ではなく、福岡にした理由も知りたいです。熊本の人って地元愛が強くて、地元から出たくない人、出ても戻ってくる人が多いイメージがあります。

P:地元愛はもちろんありますが、場所へのこだわりはあまりなくて、ただ店を開くなら都市部でやりたいと思っていました。田舎だとどうしてもお客さんの間口が狭くなりますよね。福岡を選んだのは姉夫婦が住んでいたのも大きいですね。ちなみに所謂「肥後もっこす」的な頑固で反骨精神が強いみたいなところは多少合っています(笑)集団にいることが苦手なのもそのせいなのかな。

d:道具好きが高じて、といえども、東欧と呼ばれている東ヨーロッパ(津留さんが主に訪ねていくのはルーマニア、ハンガリーが多い)って決して行きやすくないし、移動も大変。当時は現地情報もそれほどなかった気がします。言葉も通じない東欧の国々に興味をもったり、実際足を運びはじめた具体的なきっかけってあるんでしょうか?

P:自分の店を始めることを決めたのが24才の時で、とりあえず何を買い付けるかは行ってみて考えようと、行き先を東欧にしました。チェコ、ポーランド、ハンガリー、ルーマニアを一ヶ月半かけてまわってみました。アメリカに行った時になんとなく肌に合わない感じがしていて、アメリカの旅が終わったあとに次はヨーロッパに行ってみたいと思っていました。その頃チェコのアニメーションや東欧の映画に触れることが多く、その独特な表現やちょっと影のある雰囲気に惹かれたことが東欧に行く決め手だった気がします。あと、みやこうせいさん※のルーマニアの農村を書いた文章や写真の影響も強いです。

d:今のこいまりビルに移転される前のお店ではチェコ語の教室などもされていたそうですね。雑貨中心の可愛らしい感じのお店だったと聴きました。今は重厚といいますか、ガッツリ民芸的なものや手仕事のもの、たまに近隣の国の古いものも混じっていて、独特の美しい空間です。雑貨店ではなく、深みのあるアンティークとクラフトのお店、という印象。好みもずいぶん変わってきましたか?

P:そうですね。結構「雑貨店」という感じでした。店を始めたのが25才の時だったので、軸があまりないままスタートさせた感じでした。それは自分でも自覚していて、やりながら自分の好きな物を確立させて行こうという思いがありました。今のフォークロア的なセレクトを強めたのは、5年くらい前ですかね。ハンガリーとルーマニアの買い付けがメインになった頃です。特にルーマニア・トランシルヴァニア地方の現代とは思えないような農村風景に感動したことが大きいで す。民族的な美しさや土着的な力強さのあるものにより心を惹かれるようになりました。

d:Picnikaのお店にも何冊も置いてありますが、津留さんは古い写真集やフォークアートの本もお好きで集めたり、販売したりしていますよね。ドキュメンタリー写真や図案を見ても、遠いここ日本で、普通に現代的な暮らしをしている私たちからすると物語の中の風景や風習に思えるくらい、濃厚で美しい風景や営みが印象的です。現代の時間の感覚や便利すぎる暮らしから離れた感覚が残っているというか。懐古趣味でいいねって思うというより、純粋だからこそ未知の、でも懐かさや豊かさを感じる空気もあるというか。津留さんは農村風景に感動した、ということですが、ルーマニアはまだまだクローズドな場所だからそういった風景やものが残っている感じなのですか? 若者はわりと現代的? 遠くから日本人が村の中にひょこっとやってきて、びっくりされたり門前払いをくらったりすることはなかったんでしょうか?

P:トランシルヴァニア地方などでは門前払い的なことを経験したことはほぼありません。びっくりするくらいウェルカムなんです。元々ハンガリーの領土だった トランシルヴァニアは、第一次世界大戦後にトリアノン条約によってルーマニアに割譲されて、トランシルヴァニアに住むハンガリー人は母国から引き裂かれた形になったのですが、そういった背景がハンガリー人であるというアイデンティティをより強いものにして、ハンガリーよりハンガリーらしい古き良き風景を残しているようです。ただやはり若者は都市部や外国に出稼ぎに行くことも多く、村の活気はあまりない印象です。毎回訪れる度にこの美しい風景が廃れていくことが心配でなりません。

好きだから続いている

d:津留さんがつくり続けている「FOLKSY」も、買い付けで巡る旅の風景を中心に、教会や現地に暮らす人、そこで買い付けたものなどが掲載された小冊子ですが(なんとご自分で写真を撮り、デザインして入稿して、というデザイナー泣かせの器用さ!)、これは記録のため?それとも現地の暮らしやご縁のある場所を伝えようというので発行してるんですか? 冊子とか新聞づくりって… 大変じゃないですか笑。好きじゃないとつくれないし、熱量がないと続いていかないって心底思います。

P:例えばフランスやイギリスだとなんとなくどんな場所か想像つくと思うのですが、僕が行っているハンガリーやルーマニアって情報が少ないですよね。個人的には 古いものはどんな場所から来てどんな人がどんな風に使ってきたかが気になります。「ハンガリーのものです」っていうだけだと魅力が伝わらないと思って、それを補うツールとして「FOLKSY」を発行することにしました。でも写真を撮ることがすごく好きなので、この冊子のために写真を撮っている感じはないです。だから発行の理由の半分は割と自己満足のためなのかもしれません。そう、好きだから作れているんだと思います。

d:号を重ねるごとに、よりその先へ、奥へと目線も深まっている印象を受けます。買い付けの旅先がだんだん絞られていること、お店の空気感も変わってきて、ここ5年でやりたいことをやれているとのことですが、買い付けてきたものものでお店の空間をつくるときに意識していることってありますか?わりと、大変なDIYもベランダでこなしたりしていてすごいと思う笑。それを吹聴もせずサクッとやってのけますよね笑。買い付けの度に、ものが変わるだけでなく、どう見せるか、の意識がとても高いことで「見えない何かをつくる人」のように映るのかなと思います。

P:空間作りで意識していることは、作り込みすぎないことですかね。選んできた物は十分に素敵だと思っているので、「素敵でしょ」と訴えかけるいやらしさはできるだけ出さないようにしています。あとはリズムも大事にしています。ちょっとした小上がりを置いたり、物も什器の並びも平坦にならないように心掛けています。素材を殺さずにリズム良く配置することがもしかしたらデザイン的なんですかね。だから「つくっている人」に見える、とか。

d:うん、リズムを感じます。買い付けの旅の楽しみや、道中必ずしていることってありますか?

P:最近はルーマニアのトランシルヴァニア地方の小さな村の教会や民家を見て回ったりします。村自体が博物館のような所もあって、トランシルヴァニアがフォークロアの宝庫って言われるのがよくわかります。蚤の市などで知り合った人の家に行って、自家製のブランデーや料理をご馳走になることも少なくなくて、そういう触れ合いも楽しんでいます。

完璧じゃない形や風合いの愛らしさ

d:札幌は、気候や緯度が似ているせいか、北欧雑貨のお店がとても多いです。北欧の洗練されたデザインやプロダクトも、北国によく馴染むので好きなんですが、その一方で私は個人的にPicnikaで手にした硝子や布や木のものなど、工業製品には決してない手の跡や縫い仕事の残るものにもすごくぐっと来て、とくに津留さんが選ぶ東欧の古道具がとても肌に馴染みます。そして、アンティークのものや手仕事のものって、飾って愛でて満足するものも多いですが、Picnikaで選んだものは、我が家では実際に道具として使ってるものがとっても多いなと気づきました。なんだろう、悪目立ちはせず、暮らしに馴染んでくれる懐の深さがあります。津留さんにとっての東欧の古道具の魅力ってどんなものでしょうか。買い付けの時は実用、実用でないものって意識していますか?

P:「東欧」とひと括りにできないところもありますが、東欧で僕が好きで選んでいるものには民族的な美しさや土着的な力強さに加えて、どこか「隙」がある気がしま す。dropさんが肌に合うと感じているのはそのせいなのかも。完璧じゃない形や風合いのものってほっとするんですよね。日々の暮らしで緊張したくない。だからそういう鈍臭くも愛らしい手仕事に囲まれたいし使いたいと思っています。道具は使えることに越したことはないので、できるだけ実用できる物を選んでいます。物にもよりますが、朽ちたものの美しさ、という価値感ってあまり共感できないです。道具って使うという行為が美しいじゃないかと思っています。

d:札幌での「東欧のフォークロア」展のすこし前、秋の終わり、再び津留さんは東欧へ買い付けの旅へと出かけるそうです。今回はどんな場所をまわり、どんなものを見つけて来るでしょうね。

P:今回もお馴染みのハンガリーとルーマニアですが、まだ行ったことがない地方にも行く予定です。去年の展示では布ものや木のものが人気だったので今回もその辺りを多く見つけれたらと思っています。暮らしに馴染む道具と民族的なアクセントになるものを楽しんで頂きたいです。