つくる、をみにいく 1

小さな樹が生まれる場所 coguさんのミニツリーcogu no mori

北国・札幌を拠点に木の器やカトラリー、そして小さなツリーcogu no moriをつくられているcogu /小具さんに会いに、こうばをお訪ねしました。1本1本を丁寧につくりとどける、たしかな職人仕事と、それを支え伝える、coguさんならではのつくる・はたらくの姿も見えてきました。
photo,text : rie aoyama

雪を連れて、北国に冬がやって来る。
またあの小さな樹に会える。

秋の頃から静かに、冬の間じゅうをかけて、1本1本つくられているcogu no moriは、cogu/ 小具(以下、coguさんと呼びます)という屋号で、木工の仕事をされている職人の中島裕基さんと奥様の雅子さんとで毎冬につくられています。

作家だけれど、職人しごとありき

「木工の仕事」「職人」という言葉をあえて使うのは、お二人が「作家」という肩書きを遠慮されるから。事実、どんなに作品が人気で憧れの的であろうと、作品展に列が出来ようとも、SNSにロックスターばりのフォロワー数がいようとも、当事者のcoguさんは「ただの職人ですから」といつでも控えめ(すぎる)。賞賛されても「いやいやいや、、、」と二人揃って後ろに下がっていくようなおふたりなのです。
古くからのお客さま、おつきあいのあるお店や、その店主さんとの関係を大事に育てていらして、なんとも真っ当で真摯な作り手さんでいらっしゃるので「大人気の作家さんです」とミーハーにご紹介するのも、憚られます。心の中では「北国・北海道を代表する木工職人さんですよー!」と大声で言いたいくらいですが、その確かな手仕事と姿勢に敬愛を込めて、これからもあえて「職人」と呼ばせて頂こうと思います。

さて、前置きが長くなりました。
coguさんが家具や木の器の制作とは別に、cogu no moriをつくっていると知ったのは、札幌市内のイベント会場などで、スプーンやお皿を彫るワークショップを開催されている傍らに、小さなツリーがちょこんと飾られているのを見たことからでした。
手のひらに乗る、小さく美しいcogu no moriは「これは売り物ではなく、ディスプレイ品かな?」と思ってしまう精密さで、技術の高い職人さんのお仕事といえども、このツリーをひと冬の間に、おひとりで1000本以上手彫りで量産するなんて、まったく想像もつかないことでした。

机の上に並ぶcogu no mori 見本品。「葉っぱがはがれちゃった失敗作もあるからじっくり見ないでね笑!」とのことですが、とりどりの枝葉に見とれます。

cogu no moriが生まれるところへ

その後、ご縁あってそのツリーのパッケージデザインのご依頼を頂くことになるのですが、(→drop aroundのつくるの話:cogu no moriを包む箱 記事も併せてご覧下さい)その時も「え?これを?お一人で?1本ずつ?」と、ただただ驚くことから、お打ち合わせがはじまったことを覚えています。実物サンプルとして持参してくださったcogu no moriを見て、さらにびっくり。同じかたちの軸をベースに使っていても、樹の種類と彫り方によって、こんな風に1本1本違う表情になるんだ!といっそう驚いたのでした。

そこで、cogu no moriはどんな風に生まれるんだろう、coguさんがどんな風にこの小さなツリーを作り出しているのかを見てみたくて、「こうば」をお訪ねさせて頂くことになりました。
季節は冬。
個展や出展イベントのため全国に飛び回るお忙しい合間に、cogu no moriの制作風景を見せて頂くことができました。


数日前に降った雪のおかげで、あっというまに札幌の街も真っ白に。cogu no moriのことであたまがいっぱいの私たちには、大きな樹も「リアルコグノモリ」に見えました。


天井の高いスレート小屋の半分を工房にされています。ところ狭しと材料の木と加工の機械が並びます。

器とともに人気の匙、スプーンのベースとなる予定の、木のかたまり。常時ストックを用意しながら、手をかけていきます。

こちらは丸皿や角皿、オクトゴナル皿になる予定の木のかたまり。料理と同じく段取りが大事。

cogu / 小具は、「つくる」と「伝える」から出来ている。

工房見学の際も、coguさんはふたりで迎えてくれていました。
cogu no moriをはじめ、木の仕事をされているのは中島裕基さん。特注家具を中心につくる家具製造会社で働いたのち、cogu/小具 として独立されました。屋号の由来は「心に留まるもの・道具を挙げてみたところ、木の道具・古い道具・小さい道具であったこと。それらが偶然にもすべてコグと読めた(木具・古具・小具)こと」から。中でもその頃から匙など小さい道具を中心につくっていたため、漢字表記は小具を選びました。一方、奥様の中島雅子さんは取り扱い店やギャラリー、個人のお客さまとのやりとり、HPやSNSで展示やWSのアナウンスや問い合わせ対応までを担当されていて、裕基さんが制作に集中出来るようマネージャーのようにサポートされています。

裕基さんはよく「僕は全然すごくないんだよ。彼女が素敵なんです。」と、ニコニコ言います。
確かな技術力があり、使い易く美しいものをつくっていたとしても、誰にも知られなければ、その魅力や使い勝手の良さは伝わらない。作り手の独りよがりで終わってしまいます。雅子さんは、裕基さんのつくるものを実際に使い、ユーザーとしての意見を伝え、手入れをしながら暮らしの中で使い続けています。同時に一番近くで裕基さんの制作のプロセスとクオリティへのシビアな追求を知る雅子さんの目線にはリアリティがあり、作り手と使い手の両方の気持ちを理解しているからこそ、私はこんな風に使って楽しんでいますよ、というシーンを見せられるのでしょう。季節ごとの美しさも感じる作品紹介で、裕基さんの生み出すものを知る方はとても多いはず。実作業には参加していなくても、世界観を伝えたり、お客さんに説明をしたりすることも「つくる」の中に入っている大事なこと。どちらかが欠けても、今の「cogu」の活動スタイルには、ならなかったのではないでしょうか。なんと強靭なパートナーシップだろう、と憧れます。その度にcoguはふたりでひとつ。つくる+伝える、で、ものが出来ているブランドなんじゃないかな、と思うのです。

冬の間じゅう手元でつくる、端材から生まれた小さなツリー

そしてcogu no moriもまた、おふたりで智恵を絞って生み出されたプロダクトです。そもそもは、「家具の端材部分を有効に使うため」そして「冬の間じゅう手元でつくっていられる」ものを、と考えついて、つくりはじめたのだそうです。冬に発売しているせいか、クリスマス用に、と楽しみにされている方も多いcogu no moriですが、1年をとおして眺めてもらいたい、と冬の間も2月くらいまで制作を続けているそう。作り出した当時は、人気のあまり1000本ノックのごとく、冬じゅう彫って彫って彫りまくることになろうとは、思いもよらなかっただろうと想像します。


背が高いのがtrim、低いのがtwig。

cogu no moriはtrim(トリム/10㎝)とtwig(トゥイグ/9㎝)の2つのサイズがあります。同様にツリーのベースとなる「軸」も2サイズあって、この鉛筆の先端のような「軸」は、福祉施設の工房に依頼をし、用意してもらっているそう。事前に、裕基さんが端材を綺麗に長方形にカット、整えて、木目の向きを間違えないように先端になる方に印をつけて施設へと送ります。施設の方々が迷う事なくベースづくりが出来るように、との配慮です。そのうえで、材料から無駄無くたくさん軸をとれるるよう削り出し方まで何度かレクチャーし、つくってもらっているそうです。その下準備を経て、夏までにこつこつ貯められた「軸」を受け取り、秋の終わりくらいから、器やカトラリーなどの展示出品物の制作の合間に、いつまでに何本納品、1日何本、、とおおまかな目標を立てて彫りはじめるのです。しつこいようですが、弟子どころか影武者さえもどこにも見当たらずに、本当にたったおひとりで1000本以上を彫っていることに、やっぱりびっくりしてしまいます。


使う刃物は、オーダーで鍛冶職人さんがつくる刃を求めることも。小さい枝葉を削っていくため、切れ味が命。作業の前に、刃の状態見て研いでから使いはじめることも多いとか。


ベースとなる「軸」にやすりをかけて、彫りはじめを整えているところ。


作業台にずらりとならぶcogu no mori予備軍。色々な材からとっているため、赤みのあるもの、白っぽいものと色々な木肌のベースがあります。

1本1本を、丁寧に。めくりあげるように、彫っていく。

いよいよ、cogu no moriが生まれる現場を見せて頂きます。「めくりあげるように、彫る」という独特の手法に「す〜ご〜い〜」と思わず声が漏れます。(動画がぶれているのも、実はそのせいです。ごめんなさい)樹の下からめくりあげていくのではなく、軸のてっぺんから彫りはじめ、軸を廻しながら少しずつ力を加えていき、枝葉のかたちをつくっていきます。絶妙な力の込め方に、裕基さんにしかない身体的なリズムとセンスを感じます。太い枝葉、まるっこい枝葉、くるくるカールの枝葉、さまざまな表情をもったcogu no moriは、こうしてつくられているのだ、としみじみ感動。ちなみに「くるくるカールの子」を彫るのが、一番時間がかかるそうです。どんなにうまく彫り進めていっても、力加減や木の乾燥具合で最後の最後でぽろりと枝葉が折れてしまうこともあり、さすがに連続で枝葉が折れてしまうと「ちょっとショック笑」だそう。それでも毎日少しずつ彫り進め、1本1本手を抜くこと無く、小さな樹を作りとどけていらっしゃいます。


いよいよ彫りはじめ。軸の先端、てっぺんから「めくりあげるように」彫りはじめます。


集中しているところ、たくさん話しかけても笑顔で質問に応えながら、スイスイ彫り進める裕基さんに、思わず「か、神、、!」とつぶやく私たち。


今回見せてくださったのは、難易度の高い「クルクルの子」。徐々に、枝葉のカールが長くなって来ていますよ


完成間近の「クルクルさん」。オンライン予約ご注文の際は、ランダムに選んでお届けするため、この子が欲しい〜!には、残念ながらお応え出来ません。

cogu no moriに添えられた小さなメッセージ。

cogu no moriの箱になかには、coguさんからのメッセージとして、小さな三つ折りの手紙が添えられています。その「トリセツ」を兼ねた小さな手紙の締めくくりには、こう書かれています。「環境の変化や乾燥などにより枝葉が枯れ落ちてしまう場合もございます。自然のものの表情としてご理解くださいますようお願いいたします。森の中に存在する木々を思い重ね、枝葉が枯れ落ちた様子のcogu no moriも愉しんでいただけましたら幸いです」丁寧で確かな技術と、地道な手仕事、あたたかな心遣いから、今年もcogu no moriは生まれています。


クルクルさん、完成!美人さんです!このあと、1本ずつ、専用箱に収められていきます。箱のラベル貼りは、マスク姿の雅子さんが担当されていました。


材料の隣にちょこんと置かれたcogu no moriたちも可愛らしい。

▶︎訪ねたつくり手:coguさん
cogu / 小具 (中島裕基さん 中島雅子さん)

北海道・札幌を拠点に家具から小さな木の器、カトラリー、ミニツリーまでをつくる木工職人・中島 裕基さんと、その仕事を伝えるお手伝いをする雅子さんからなる工房・屋号。全国各地のギャラリーやショップなどでの展示販売を重ねるほか、木の皿や匙をつくるワークショップを開催し、木の道具を自分の手でつくり、使う楽しさも伝えている。よそゆきのものではなく、毎日の生活に気兼ねなく使える木の道具でありながら、潔く、シンプルで美しい手仕事に惚れ込むファンが多い。